2004年分
経験、そして共(教)育 2004年12月

 『人を育てることを本気で考えている』。そんな方との出会いや語らいは、本当に嬉しいものです。仕事を越えて、仲間としての交流ができたら、と思うことがあります。A係長は、穏やかな中にも芯の強さを持った素晴らしい人です。今年、彼の元にBさんが異動してきました。A係長は、本気で彼を育てようとしています。そして、彼もそれに応えようとしています。異動がつきものの役所ですから、先のことは分かりません。でも係長は、研修・人事・給与の担当を経験させ多くのことを学ばせようと考えているようです。その気持ちがよく分かります。なぜなら、私も『育ててみたい』と思うほどの好青年だからです。鍛えたら、きっと素晴らしい研修担当者に成長すると思います。Aさんをとおしてあらためて思いました。研修担当になると、組織全体の職員研修の要になることは当然ですが、部下や後輩を育てることを忘れてはならない、ということを・・・。

 自動車メーカー勤務のYさんと久しぶりに会いました。彼も以前は社員研修を担当していました。その折に『育ててみたい』Bさんの話をしました。そうしたら、「先生は、私を育てたいなどとひと言も言ってくれなかった」と叱られました。でもそのあとで「研修担当を経験したおかげで、見えなかったものが見えるようになりました」と誇らしげに語ってくださいました。研修という"現場"としっかり向き合ってきたからこそ、そう言えるのでしょう。さらにいい顔になっていました。

 "経験はまさに宝なり"。そのことを痛感いたしました。営業マン研修を久しぶりに担当しました。実力派経営コンサルタントが2日間担当した後を受けてです。営業マンのプレゼンテーション研修ならお手のものですが、今回は少し勝手が違います。戦略的な営業アプローチが切り口の研修です。不安もありましたが、経験が味方をしてくれました。SEIKOに勤務していた頃の営業マンとバイヤーの経験が役に立ったのです。そして、いま営業と講師を兼務する自分自身の生き方そのものが、語る素材であることに気がつきました。研修担当の皆さんも、任期中に実りある経験を積んでください。

 「月刊 地方自治 職員研修」への連載【厳しい時代の職場づくり、人づくり】が終了いたしました。多くのご意見や激励、共鳴をいただきありがとうございました。平成16年、最後の配信となりました。1ケ月に1回なのに結構大変でした。でも多くの皆さまに見ていただきたくて、共(教)育への思いを頑張って綴ってきました。このホームページの閲覧順位が世界で何番目かが分かるのです。この秋口に90万番台の順位が、今日は、319,505番目です。ご覧いただき、本当にありがとうございます。時間との相談ですが、リニューアル(配信の増設)も検討中です。今後も、ぜひご覧ください。


研修のアウトソーシング 2004年11月


今月のアドバイスは、かなり以前に書き始めたものです。しかし、途中で筆を中断しました。時期尚早の思いや実施している自治体への遠慮など、配信するのにためらいがあったからです。でも最近では、研修先でとても話題になります。思い切って配信させていただきます。

『アウトソーシング』と言う言葉をよく見聞きします。民間企業なら外注化、自治体ならばさまざまな事業の民営化の推進、と私は理解しています。既に、ゴミの収集、学校給食や施設管理、最近では保育の分野まで民営化が進んでいるところもあるようです。この『アウトソーシング』が、職員研修の分野まで波及しています。既に実施済みの自治体には、はなはだ失礼かと思いますが、(お許しください)私は、職員研修の『アウトソーシング』には、大いに異論があります。

その理由は、たくさんありますが、3点に絞ります。1点目は、“教育は共育”と言う見地からです。研修とは、その立案から運営実施・フォローのプロセスをとおして、研修担当者・参加者・研修講師(指導者)が三位一体となり開発創造し、そして、お互いに育ち伸びるものでなければならないと思うのです。研修を外部に委託(丸投げ)する、と言うことは、結果的に組織に研修担当者(特に、トレーナーとしての担当者)が育たなくなり、研修への依存体質が、延々と続くことになるわけです。もちろん、パイプ役となる職員は配置するでしょうが、連絡係・事務係で終わる可能性は否めません。2点目は、競争原理が働かなくなります。確かにコストメリットは大きいと思いますが、研修のカラーが単調になります。そして何より怖いのは、研修の質の低下が考えられます。失礼な見方をお詫びしながら申し上げますが、私が委託会社の責任者ならば、講師養成の絶好の場として利用するかもしれません。そう簡単に講師は務まりません。見習い期間が必要になります。そして、育った講師を他社に派遣することも可能です。新規契約が決まると、まず実力派講師を派遣。継続してきたところで格落ちの講師を派遣。世間ではあたり前のように行なわれていることです。そのことを実体験している自治体の担当者の、嘆きの声も聞いたことがあります。3点目は、いたって単純な理由です。アウトソーシングの対象としてよい事業、してはいけない事業があるということです。研修事業は、後者であるべき、それが私の持論です。よほどの事情がない限り、自分の子どもは自分で育てるのがあたり前です。私たち外部講師は、そのためのアドバイザーに過ぎないのです。コストメリットの視点でアウトソーシングを考える前に、現状の改良改善にもっと真剣に目を向けるべきだと思うのですが・・・

公職研発刊「地方自治 職員研修」のシリーズ【厳しい時代の職場づくり、人づくり】も12月号で終了です。ホームページも来年は、もう少し充実させなければと思っております。「すぐに役立つ話し方講座」も新設したいのですが・・・時間との相談です。



研修テキスト、資料の価値(取り扱い注意) 2004年10月

ある県の外郭団体では、中小企業向けにさまざまな支援をしています。研修の提供も行っています。数年間、管理職研修の一単元を担当してまいりました。定員枠はありますが、希望すれば県内の企業ならどなたでも自由に参加できます。料金も低額で、私も受けてみたい研修が多々あります。残念ですが、私は県外のため申し込みはできません。
 この研修にあきらかに同業者と思われる方が参加してきます。ひどいもので、中には研修教材(テキストなど)だけを手に入れようと参加してくる人もいます。つまり、研修を仕事にするものにとっては、喉から手が出るほど入手したい代物なのです。言葉を変えれば、それだけ重要で価値あるものなのです。

 弊社は、研修で既製のテキストは一切使用いたしません。講演でもレジュメ1枚で済ませることはありません。それなりのテキスト(参考資料)を作成いたします。手間もかかります。同じような研修でも人数や、対象者が違えば若干でもテキストの内容を修正すべき、と考えます。だから大変なのです。懇意にしている同業者からは、「テキスト代をいただかないのですか!?」と驚かれます。2000円程度はいただける内容と自負していますが、料金はいただいたことがありません。(特例で1件だけありますが・・・)
 また、資料の出し惜しみをしたこともないつもりです。研修の内容によっては、提供資料を制限するのが、この業界の常套手段です。それだけに、私にとっては「たかがテキスト」ではないのです。思いをいっぱい詰めて創った(あえて創ったにしました)テキストなのです。

ときどき研修で残ったテキストや資料が無造作に放置されているのを見かけます。場所は、講師控え室だったり、研修室の片隅だったり、教卓の下だったりとさまざまです。大きな研修所では、いくつかの研修が同時に開催されます。受付で配付した資料やテキストが、廊下のテーブルの上にいつまでも置かれているケースもあります。自分のテキストもあんな運命をたどるのか、と思うとゾッとします。研修担当者の皆さん、取り扱いには充分注意してください。そして、お忙しいでしょうが、研修担当者でしたら必ずテキストにも目をとおしてください。

公職研発刊「地方自治 職員研修」のシリーズ【厳しい時代の職場づくり、人づくり】11月号では『人の優劣・職場の優劣』と題して書きました。ぜひ、お読みください。



ガンの心配、ありがとう 2004年9月


「その割には実力がない」と笑われるかも知れません。でも、この仕事のプロとして16年。それ以前のセミプロ時代(勤務をしながら、夜間や休日の話し方スクールの講師をしていました。)を含めると30年以上になります。多くの皆様にご支援をいただき、長いお付き合いをさせていただいております。私のことをよく理解してくださる方々が、冗談交じりに「ガンではないでしょうね?」と、このところ心配してくださいます。
「多分そんな気がします。」と応えています。今年に入ってから『講義の雰囲気が違う』『執筆のタッチが違う』それが理由のようです。最近の講義の語り口や執筆原稿の行間から、時々、余命がないような感じがするのだそうです。(本人は、それだけ真剣だとほめられていると思いたいのですが・・・)

昨年あたりから、私の中で何かが動いているのです。友人からいただいた招待券で、よく観劇を楽しませていただきます。1日2回の1ケ月公演をこなす精神力・体力に感心します。それ以上に感心するのは、その他大勢の台詞もない端役の皆さんの姿勢に対してです。私は、主役よりも端役の立ち居振る舞いをオペラグラスでよく観ます。端役でも手抜き工事は絶対しません。さすがプロと脱帽です。学校の先生が教え子に強姦するなどの不祥事が多発していた頃、飲み屋で隣り合わせた高校の先生に「どう思うか?」と尋ねたら「公立のアホ教師のおかげで大助かりですよ」との返事。唖然としていると「私立校は、生徒が集まってなんぼの仕事。」とか。公立校の不祥事があると、生徒が私立に流れて大助かりなのだそうです。価値観の多様化が身にしみました。数年前までは、世間からは3流4流呼ばわりをされていました。でも今では、大卒の採用も珍しくない業界があります。その業界のテナントとして店内でワゴンサービスをしている多くの女性がいます。縁があり店長クラスの研修をしました。高卒がほとんどで中退組もいます。普通ならば遊びこけている年齢の人たちです。(20歳から23歳くらいです)その女性たちが、仕入れ・アルバイトのローテーション管理・売り上げ管理までほとんどを任されて頑張っています。私はその若さでその力量を心底凄いと驚嘆しました。失礼ながら、研修では、少し難しい漢字になると読めない人もいました。でも「分かりません。教えてください。」と実に謙虚です。そして、とても熱心で意欲的に研修に参加しています。自治体職員の高学歴化・一流大卒化は、もう珍しくありません。ならばそれにふさわしい知識や行動に期待したいものです。“冷めている、仕方なく座っている、常識を知らない、係長にもなって研修中にガムを噛んだり飴をなめている”そんなアホには、彼女たちの爪の垢でも煎じて飲ましてあげたいと思うのです。(そんな輩には爪の垢でも飲ますのが惜しい気もいたしますが・・・)

これで何かが動かなければ、私は本当の末期ガンでしょう。よい治療薬を探し求めての旅は、まだまだ続きそうです。研修担当者の皆さん、いま、あなたの心では何が動いていますか?

公職研発刊「地方自治 職員研修」のシリーズ【厳しい時代の職場づくり、人づくり】10月号『求められる研修担当者の手腕・後編』では頑張り屋研修スタッフの素晴らしい取り組みについてご紹介いたします。ぜひ、お読みください。
 


研修のキーワードを突き詰めて考えていくと 2004年8月

 「我が意を得る」ある方の意見をお聞きして、そんな思いをますます強くしました。ここ1年ほど気になっていることがありました。しかし、同じように感じているのは、私だけではないようでホッとしたり、がっかりしたり、と複雑な心境です。
 啓発啓蒙的な教育や
研修のキーワード(理念やスキルなど)を、どんどん絞り込み、突き詰めて考えていくと意外なことに驚くのです。なんとそれらのキーワードは、小学生が教わるようなことに落ち着いてしまうのです。「きちんとあいさつをしましょう」「ハイ、と返事をしましょう」「お世話になったらお礼をいいましょう」「他の人に迷惑をかけないようにしましょう」「相手のことを思いやりましょう」「約束を守りましょう」などに集約されてくるのです。
 このことと研修の場面を照らし合わせてみると、見事に思い当たることがたくさんあるのです。“研修に遅刻する”お話になりません。“研修の途中から欠席する”グループ学習が中心の研修では、この上ない迷惑です。“事前課題(宿題)をやってこない”それで平気な顔をしている。
どんな神経をしているのかと疑いたくなるのも当然です。
 先日もこんなことがありました。研修中に居眠りをはじめた人がいたので、即座に注意しました。別の研修先では、こちらが話している最中に隣同士でおしゃべりをしているので、大声で怒鳴りつけました。両者とも30歳に近い若者です。何が優秀かは、はなはだ疑問ですが、世に言う優秀な大学を出ている職員です。以前でしたら、しらんふりしていたのですが、最近は憎まれ口を叩きます。呆れてしまうのは、注意されても詫びにくるケースがほとんどない、ということです。何年か前でしたら、講師控え室に神妙な顔をして謝りに来たものですが・・・時代が変わったのでしょうか。時代のせいだけにはできない問題だと私は思うのですが。
 以前、公立学校の教員マニュアルについて報道しているテレビ番組を見ました。そのマニュアルの内容は、「朝、職員室に入る時は、元気よくあいさつをしましょう」「スーツを着た時は、白いソックスを履くのをやめましょう」の類のものでした。その時は、呆れて開いた口が塞がりませんでした。でも今は、一概にそうも言えない気がするのです。そうしなければ、あたりまえの常識が理解できない世の中なのかも知れません。このようなことは、若い人たちだけとは限りません。管理職研修でも同じです。
 
研修担当の皆さん、自分の目で、しっかりと現場を見てください。研修の本道を本気で考えなければ、と思う昨今です。

公職研発行「月刊 地方自治 職員研修」のシリーズ【厳しい時代の職場づくり、人づくり】の
9、10月号では、『求められる研修担当者の手腕』と題して執筆いたします。併せてご覧ください。

 

研修時間と人数 2004年7月

 今月は、研修の基本時間と適正人員について考えてみます。私は、原則として、余程のことが無い限り研修の依頼をお断りすることはありません。ですから、採算割れのケースもままあります。でも、それは、こちらに支障があるだけで、研修自体には何ら問題がありません。問題があるのは、研修の時間と参加人員です。

 階層別研修などで、何日間の研修のうち、半日か1日をディベート研修に当てている自治体があります。仮に、このような時間で研修を依頼された場合、私はお断りせざるを得ません。ディベート研修を一度か二度経験したことのあるメンバーならともかく、初心者でしたら無理があります。ディベートは研修の一技法にすぎません。方法論を身に付けることも大事ですが、私は
むしろそこへ至るプロセスが重要と考えます。話すことに不慣れな日本人には、表現の基本訓練というプロセスが欠かせません。それ以上に、自治体の多くの業務に、論理的思考や論理的表現力が求められる場面がいかに多いかも事例を挙げて説明しなければなりません。そうしますと、最低でも2日間は必要です。人数も20〜24名程度が理想です。
 今度は、企画力研修を例に考えてみましょう。企画力とは、問題解決、創造能力・文書化能力・プレゼンテーション能力の三つを指します。この三つを網羅した研修となりますと、
常識的には3日間必要になります。2日間にする場合は、何れかの領域を割愛しなければなりません。
 最近は、プレゼンテーション研修を頻繁に依頼されます。こちらも
2日間コース、20〜24名程度が理想です。しかし、現実は、1日コースで人数も倍のようなケースも珍しくありません。100名、200名の時もあります。ニーズが高い反面、研修予算が削減されているせいか、どうしても1回当たりの人数を増やさざるを得ないのでしょう。講義主体の研修でしたら人数が多くても支障はありません。でも、プレゼンテーション研修は、実習が主体で命です。可能な限りの知恵を絞って努力はしますが、限界があり研修効果もある程度のラインしかクリアできません。それでもアンケートなどは、 普通の研修と同じように評価を受けなければならないのですから大変です(たまりません)。
 最近、庁内講師養成研修が増えています。これ自体は、歓迎すべきことです。OJTの促進や職場の独自研修の点からも、大いに意義があります。でも、この類の研修ならば、
2日〜3日間コース、15名以内が前提条件です。

 弊社では、講師を2名派遣して、できるだけ実習時間が多くとれるように対応する(必要に応じて二手に分かれて実習します)ケースもままあります。もちろん採算割れになりますが、なによりも優先しなければならないのは研修効率であり、研修効果です。
研修を消化するための研修にならないように気をつけたいものです。
 

この時期だからこそ 2004年6月
 
 『批判より模範 道徳は耳より入らず 目より入る』Sさんは、この言葉を玄関に掛けています。そうすることで、自分を戒めているのでしょう。研修を担当させていただく自分には、ことさら身に沁みる言葉です。このホームページをご覧くださる研修担当の皆さんも、同じ気持ちだと思います。4月の新人研修で、私たちは、彼らの目にどのように映ったのでしょうか。本当に模範を示せたか否かを、真剣に振り返りましょう。

 さて、早いもので、新人が職場生活を始めて、3ヶ月目に入りました。
「鉄は熱いうちに打て」という言葉がありますが、打たなければならないのは、新人だけではありません。むしろ打たなければならないのは旧人かもしれません。新人にも少し余裕が出てきます。そろそろ、職場の先輩や上司が、どの程度の人物かを見分ける時期に入ります。最近の新人は、賢いですから、本物か偽者かを見分ける嗅覚はとても発達しています。口には出しませんが、腹の中で笑っているかもしれません。タイムリーな管理理監督者研修を期待します。

 さらにこの時期だからこそやらなければならない事があります。それは、研修担当のあなた自身が、
新人フォローに入らなければなりません。あなたには、職場に送りだした新人を見守り、観察する責任があるのです。所属長に新人の様子を確認する、新人自らの声を聞く、などのヒアリング予定はもう立ててありますか?まだでしたら、早急に予定を立ててください。市町村研修所の担当者でしたら、各市町村の窓口担当者から情報を収集するなどは、当然の義務と考えるのですが・・・そのようなあなたの熱意ある行動が、今後、研修参加者の多くの人の意欲を高めるのです。大変でしょうが、頑張って実践してください。研修への目線が変わるはずです。そこまでやりましたら、あなた自身も大きく変わるはずです。せっかく与えられたポジションです。大切にしてください。

 そして、もう一つのお願いです。昨今自治体に入庁する人は、(専門職など例外はありますが)必ずしも公務員として身を尽くす的な熱き思いが少ないような気がします。公務員の仕事が、本当に大好きと感じられる風土や働きがいのある職場づくりの一役を担ってください。どうしたらよいか、そんなことを
考えながら仕事をするのは、とても楽しいことだ、と私は思うのですが・・・
 

研修内容と金額の狭間で 2004年5月

 自治体も深刻な財政難に見舞われています。限られた予算の中で、より効果的な研修を実施しなければなりません。効果を測定しやすいのは、言うまでもなく実務や専門研修の分野です。パソコンを使えなかった人が、パソコン研修を受講して使いこなせるようになったら、まさに効果が上がったことになります。しかし、そのような研修だけで良いか否かは、はなはだ疑問です。組織の活性化や起動力を促進するには、啓発研修が欠かせません。厳しい予算の中で、どのような研修を企画し、実施・運営するかなど、研修担当者の手腕が問われる時代なのです。

 先日、Aさんから知り得た情報です。コーチングの研修見積りを取り寄せたところ、協会の認定講師の場合は、1日あたり60万円だったとのこと。凄く呆れていました。彼は、研修にとても熱心で賢い方です。金額に呆れただけではなく、自治体にこのような金額で
見積りを出す神経にも呆れたのだと思います。認定講師でなければもう少し安くなるとの注釈が付いていたそうですが、非常識もはなはだしい、と私も思います。認定講師でなくても立派に指導できる優秀な講師は結構いるはずです。私は、コーチングの専門家ではありませんが、(私なりに古くから提唱してきました)コミュニケーション学の一分野にすぎない、と思っています。さりとて、この類(たぐい)の研修ならば、10万では安すぎると思います。そうすると、自治体の研修担当者は、常に研修内容と金額の狭間で悩まなければならないことになります。いくら予算がなくても“安かろう、悪かろう”では、困るのが研修なのです。しかし、一般的な相場は、どの業界にもあります。自治体がどんなに頑張っても、(例外はあると思いますが)民間の相場に肩を並べるのは無理です。

 だとしたら、
研修の受注金額は受ける側に委ねられるのです。@会社の許容範囲があり、その範囲を逸脱できない。(大手研修会社などがこれに該当するでしょう)A自分の相場を意図的に崩さない。(私の知っている方で、どんなに仕事が欲しくても値段を崩さない人がいます。辛いけれども、そこを乗り越えると、あの先生にお願いするには、この位の金額が必要と言う相場をお客さまがつくってくださると言うのです)B遊んでいるよりはマシ、と言い値で受ける。C講師を育てることを目的に、指名が無いことを条件で、言い値で受ける。D意気に感じて受ける。(金額に関係ない義理人情派、但し、意気に感じなければ金を積まれても受けないこともある)E生活は全く心配なし。とにかく仕事ができればと生き甲斐で受ける。Fあまり深く考えない。成り行き次第。

 ざっと挙げても、
受注する側には、これだけの理屈があるのです。私自身はどのタイプだろうと、いつも自問自答しています。結論を言えば、研修担当の皆さんは、これらを視野に入れて講師の選定や値段の交渉をしなければならないのです。そうしなければ、限られた予算で効果的な研修は、実施できないと思います。そのためには、アンテナを張って多くの情報を仕入れることです。そして、研修担当の皆さん自身がしっかりと勉強して、目を肥やすことが大切だと思います。

心 得 ・ 戒 め 5 訓 2004年4月

 毎年、この季節になると淋しいことがあります。お世話になりました研修担当の方々が、今年も異動(します)しました。Yさん、Tさん、Kさん、他にもまだ多くの方たちの顔が目に浮かびます。みんな真剣に研修に取り組んでこられた素晴らしい方々です。立派な足跡を残しましたね、とエールをおくります。本当にありがとうございました。感謝しながら、後任はどんな方かと想像をふくらませます。今月は、新しく研修担当になられました皆さんへのメッセージです。ベテランの方も初心にかえって、どうぞご覧ください。研修担当者の心得や戒めの5訓です。

1.言葉づかいに気をつける
 「人前に立つ以上は、品のない話し方をするな」私がこの世界で働こうと決めた時に、大先輩からいただいた言葉です。

2.評論家にならない 
 失礼ですが、「研修のことが何も分かっていないのに、よく言うは・・・」と感じる担当者がいます。いくら仕事でも嫌になります。最近は、そういう人の仕事は、受けない勇気を持つようにしました。研修とは何かをしっかりと勉強してください。そして、自らが自己啓発に努めてください。

3.きめ細やかに
 営業、企画、テキスト作成そして研修講師。弊社のように小さな会社は、一人で何役もこなさなければなりません。ですから、私も何かとご迷惑をおかけすることが多々ありますが、「きめ細やかさ」だけは失わないように孤軍奮闘しているつもりです。

4.いい加減に扱わない 
 私はよいお客さまに恵まれ、今はほどよく仕事ををさせていただいております。ですから、あまり積極的な営業はしていません。でも、仕事がなくて辛かった時も、仕事が多すぎてもう結構、という時もいい加減に仕事をしたことはないつもりです。皆さんも研修の打診で何かお願いした時や今後の予定などについては、いい加減にしないことです。はっきりと結論や意思を伝えることが大切だと思います。仕事は後腐れのないようにするものです。

5.ノウハウはフェアーに盗め 
 本来、研修担当者は、プランナーの役割だけではなくトレーナーの役割も担わなければならないのです。ですから、民間の研修担当者には必死でノウハウを盗もうとする人がいます。そのことは、ほめるに値することなのです。自治体の研修担当者にも、もう少し貪欲さがあってもよいのにと思う時があります。でも、無断でビデオに撮ったり、そのことだけで研修を頼んだりしてはいけません。まずは、そのことの許可をとるのが仁義です。

 おかげさまで、このコーナーも1年になります。書きたい放題ですが、ご愛読ありがとうございます。自治体向けの月刊誌で有名な
公職研発刊「月刊 地方自治 職員研修」の5月号から『厳しい時代の職場づくり、人づくり』を執筆いたします。こちらも併せてご覧ください。
 

ひと言からの考察 2004年3月

 先日、久しぶりにAさんとお会いしました。以前、私が研修を担当させていただいた大手家電メーカーの研修担当だった方です。今は、人事労務・研修の経験を生かして、別の部署でバリバリ頑張っています。しばし昔を思い出し、研修談義に花を咲かせました。その折に、当時を振り返って、彼がしみじみ語ったひと言です。「なぜこの先生でないとダメなの?と聞かれても説明に困るんですよね!」私はその意味がすぐに理解できました。Aさんはわたしのよき理解者で、私の手法も良く心得ていましたから、研修担当時代は、絶大な信頼を寄せて仕事を任せてくださった方なのです。でも、上司が替われば方針も変わるはずです。信頼関係が厚ければ厚いほど、前述のような質問をされることも頷けるのです。いま思えば、彼が防波堤になって随分と頑張ってくれたんだなー、と思います。そう考えると仕事の重みや有難さが一段と身にしみます。10年以上お取り引きをいただいているお客さまも珍しくありませんから・・・1年の半分は、遠方の仕事。東京から講師を呼ぶことだけでも大変な気苦労をおかけしているのだろうと頭が下がります。期待に応えなければと思います。


 一昔前には、料金の安さを理由に役所を相手にしなかった研修会社が手のひらを返したように、売り込みにくるそうです。私のように昔から役所の仕事をさせていただいている者から見ても何をいまさら、と思います。
「最初は1番手、2番手の講師を派遣してくるんです。そして、取り引きが軌道に乗ると、あとは格落ちの講師を派遣。嫌になりますよ!」とある役所の研修担当者がこぼしていたひと言です。


 研修にはとても熱心なYさんが辛い胸の内をあかしました。
「研修予算が激減しました。先生にお願いしていた研修ができなくなりました。申し訳ありません・・・」電話の向こうから彼の切ない気持ちがひしひしと伝わってきます。長年このような仕事をしていると、本当か方便かはすぐ分かるものです。本音で語っていただいてこそ救われるのです。そうでなければ虚しすぎます。


 
「先生にもっとお願いしたいのですが、そうもいかなくて・・・」聞けば情報公開やらオンブズマンやら、地元の講師を利用せよetc。研修担当の皆さん、やりにくい世の中、お疲れさまです。そんなだけに、こんな言葉をかけていただくだけで嬉しくなるのです。


 3月は、充電期間です。エネルギーを蓄えて16年度も頑張ります。今月は、少し自己PRの色が強くなったかも知れませんが、何かをおくみとりいただけましたら幸いです

 

疑問あれこれ 2004年2月
 
 年が明けると、今年はどんな研修が流行るのかと思いを廻らします。いつの世にも流行はつきものですから、研修にも流行があっても可笑しくはないのでしょう。でも、何だかすっきりしません。これでもか、これでもかと新商品のように研修が売り出されているような気がするからです。仕事を失った大手研修会社の仕掛けではないか、と思うのは個人商店のような私の僻みでしょうか?それは、名前を変えただけの商品では?そんな風に考えるのは、私だけでしょうか?

 「仏造って魂入れず」という言葉があります。最近、似たようなことが研修の世界にも多いような気がしてなりません。「研修やって制度造らず」と置き換えて考えてみましょう。「OJT実践研修」「目標管理」「コーチング」「政策形成」などの研修を例に述べることにします。どの研修も重要な研修であることは否定しません。ただ、それを制度化して組織に実践を義務づけてこそこの手の研修は生きて(活きて)くるのです。制度がなければ人は動かないものです。卵が先か、鶏が先かの議論になりますが、私は制度なくして実践なしと残念ながら思えてならないのです。さまざまな分野の制度化が、自治体はとても遅れています。制度づくりが急務なのではないでしょうか。

 いま、民間では、研修への路線が変わりつつあります。将来の幹部養成を目的とした選抜研修や自発的な選択研修を軸として、従来の階層別研修を見直す(縮小、廃止)傾向にあります。理屈はどうあれ、根底には不景気による研修費削減によるものです。この傾向が自治体にも見受けられます。しかし、私は間違った方向(方法)だと危惧しています。民間では、研修が人事や昇格にリンクしています。また、研修は仕事より優先する風土も定着してきました。研修に関する環境が違うのです。失礼ながら、自治体にはまだそのような環境が育っていません。そんな状態で
階層別研修を軽視すると、そのツケがいつか廻ってくるような気がいたします。

 私に限らず、みんな真剣に仕事をしています。真剣だからこそ腹が立つことがあります。うんでもなければすんでもなし。研修の問い合わせをいただくことがあります。先月号でも書きましたが、カリキュラム1枚でも既製品は使用しません。ですから、かなり、手間をかけて対応しています。仕事につながるかどうかは二の次。結果を知らせるくらいの気配りがない研修担当者は、人材育成の要にはなれません。即刻、辞めるべきです。(あれこれ、ついに言っちゃいました) 
 

三位一体の信頼関係 2004年1月
 新年明けましておめでとうございます。旧年中は、格別のご支援をいただきましてありがとうございました。今年も、よろしくお願いいたします。

 昨年は、ずいぶん”三位一体”と言う言葉を耳にしたと思います。一見、新語か流行語と勘違いするほどの向きもありました。でも、私は仕事をとおして、ずっと以前からこの言葉を使ってきました。
「研修は、受講者・主催者・担当講師の三位一体で創造するもの」それを私のポリシーとして今日まできました。

 あたり前のようですが、これがなかなか難しく大変なことなのです。歯車のようなもので、噛み合いがうまくいかないと研修効果がダウンします。何と言っても仕事が楽しくありません。受講生にとっても不運としか言いようがありません。

 そこで大切なのは、お互いの信頼関係ではないでしょうか。信頼関係とは、さまざまなことの積み重ねで生まれるものです。Kさんは、研修のフィードバックを欠かしません。アンケートから何を読み取るかの後編(12月1日配信)で触れましたようなことにとても熱心です。Aさんは、事務連絡がとてもきめ細かです。特に、研修ニーズが明確に記載されていますので、カリキュラムを組むときに助かります。Fさんは、私が伊藤園の「おーいお茶」を好きなのを知っていてミネラルウオターの代わりに用意してくださる気配り上手です。
人間ですから、信頼と言う絆がなければ良い仕事はできません。(但し、誤解の無いように申し上げますが、それらの有無で仕事に差をつけることはありません)

 さて、今度は私自身のことになります。信頼に応えるために、気を配っていることが二つあります。一つは、
手作りの研修に努めていることです。私どもの研修に既製品はありません。例えば、研修カリキュラム・テキストなどすべてお客さま仕様に合わせて作成いたします。事例研究やロールプレィングを伴う研修などでは、事例の収集作業から手を付けなければならないのです。その手間は、想像以上に時間がかかります。リピートしていただいた同じ研修でも、前年と同じテキストは使用しないようにしています。改訂すべき箇所は必ずあるからです。もう一つは、指導姿勢です。「受講生は、自分を映す鏡」と思っています。指導者は被指導者から自分の力量を知ったり、指導方法を学ばなければなりません。そうすることで研修に創造改善が生まれるのです。テキストや運営方法が同じように見えても毎回少しずつ工夫を凝らしていることに気づいていただけるとありがたいのですが・・・

 主催者と担当講師の信頼関係がなければ、それは場当たり的なビジネスと化してしまいます。私たちには、人材育成を担う重責が課せられています。両者の呼吸の合った真剣な思いが、結果的に受講生との信頼関係にも影響するのではないでしょうか!

 今年も良い1年でありますようにお祈りいたします。

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